社会・社交不安障害について
社交不安障害は、かつて「赤面恐怖症」や「対人恐怖症」とも呼ばれていた疾患です。
人前で恥ずかしい思いをすることに対して強い不安や恐怖を感じ、そのような状況を避けるようになります。不安の程度が強くなると、日常生活や社会活動に支障をきたすこともあります。
以前は「性格の問題」や「気の持ちよう」と捉えられていたこともありますが、現在では適切な治療が必要な精神疾患として認識されています。治療によって症状の改善が見込まれるため、早めの受診が大切です。
- 食事中に人の視線が気になり、緊張して食べられなくなる
- 口臭や体臭が他人に不快感を与えていないか、過剰に気になってしまう
- 人前で話すと頭が真っ白になり、パニック状態になる
- 顔が赤くなるのが恥ずかしくて、人混みを避けるようになる
- 来客にお茶を出す際に極度の緊張で手が震える
- 書類に記入するなどのあらたまった場面で、緊張のあまり手が震えて字が書けなくなる
社交不安障害は、薬物療法によって不安の軽減や症状の改善が期待しやすいとされています。
お悩みの方は、早めに専門の医療機関へご相談ください。
社会・社交不安障害の症状
- 他人と接することに強い恐怖や緊張を感じる
- 初対面の人と会う場面で過度に緊張してしまう
- 人前では食事ができない
- 人前で電話をかけることに強い不安を感じる
- 人前で文字を書くと手が震えてうまく書けない
- 周囲からの視線に強い恐怖を抱く
- 発表など注目を集める場面で極度に緊張する
- 注目されると汗をかいたり顔が赤くなる
- 周囲に人がいるとトイレで排尿できない
社交不安障害には、こうした社会的な場面に対する予期不安と、そうした状況を避けようとする回避行動が大きな特徴として挙げられます。
予期不安とは、「注目を浴びること」や「恥ずかしい思いをすること」などに対して強い恐怖を感じ、それが起こりそうな状況を前もって強く警戒してしまう状態です。その結果、そうした場面を避けるようになり、これが回避行動と呼ばれます。
回避行動が続くと、次第に日常生活にも影響が及び、学校や職場に行けなくなったり、外出自体が困難になったりすることもあります。
重症化すると、うつ病を併発し、社会的な機能が低下するケースもあります。
社会・社交不安障害の原因
明確な原因はまだ解明されていませんが、発症には生育環境や生まれ持った体質(生物学的要因)が大きく関与していると言われています。
例えば、不安を感じやすい性格傾向や、脳内の扁桃体が過剰に反応しやすい体質が関連しているとされており、こうした傾向は家族内で見られることもあります。
また、過去に人前で重大な失敗を経験したことがきっかけになるケースもありますが、実際に失敗していなくても、似たような状況で不安が高まり、症状が現れることも少なくありません。
社会・社交不安障害の診断
社交不安障害の診断には、精神疾患の国際的な診断基準である「DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル第5版)」が用いられ、そこでは10の診断項目が示されています。発症年齢は早ければ7〜8歳、平均的には10歳頃とされており、比較的若年期に症状が現れることが多いです。また、人前で話す、動作を行うといった特定の状況でのみ症状が出る場合は「パフォーマンス限局型」と呼ばれ、こちらの発症は平均17歳頃とされています。
社交不安障害には遺伝的な背景が関与している場合もあり、診断にあたってはご家族の病歴を確認することも重要です。加えて、うつ病や発達障害、統合失調症など他の精神疾患においても同じような症状がみられることがあるため、これらとの鑑別も必要となります。
そのため当院では、詳しい問診に加え、心理検査などの客観的な評価を通して、診断を明確に行うようにしています。併せて、病状の程度や影響の範囲についても丁寧に評価していきます。
社会・社交不安障害の治療
薬物療法とカウンセリング(心理療法)、さらには生活指導を組み合わせて進めていきます。
薬物療法では、不安や緊張を和らげる効果のある薬剤を、患者様の性格傾向や他の症状(感情・思考・行動面)に応じて選択します。特に、緊張を感じやすい場面に備えて使える頓服薬(必要時に服用するお薬)をうまく取り入れることで、「万が一不安になっても乗り越えられる」といった安心感を得ることができ、症状の緩和が期待できます。
カウンセリングでは、不安や恐怖に結びついた思考の癖に気づき、それを見直す方法を学んでいきます。また、緊張したときに心身を落ち着かせるスキルを身につけることで、苦手な場面を少しずつ避けずに過ごせるようになることを目指します。
社会・社交不安障害の
よくある質問
社交不安障害を改善するためのコツはありますか?
改善の第一歩は、できるだけ早く適切な治療を受けることです。社交不安障害には、薬物療法に加えて心理療法(カウンセリング)も有効です。治療内容は、医師と相談しながらご自身に合ったものを選ぶことが大切です。
特に心理療法は、効果が現れるまでに一定の時間がかかる場合があります。焦らず、継続して取り組むことで、少しずつ不安や回避傾向の軽減が期待できます。
なぜ社交不安症が見過ごされてしまうのでしょうか?
社交不安障害が見過ごされやすい背景には、以下のような要因があります。
- 本人が「性格の問題」だと思い込み、症状として自覚していない
- 家族とは普通に話せるため、周囲からは問題がないように見える
- 周囲の人(上司・同僚・友人など)から「何でも引き受けてくれる人」と思われており、実は断れない苦しさに気づかれていない
このように、本人の努力や我慢で表面化しにくいため、症状が軽視されやすいのです。
現代社会では、多くの人と関わりながら生活していく必要があります。安心して社会生活を送るためにも、まずは社交不安障害について正しく理解することが重要です。1人で悩まず、早めに専門医へ相談してみましょう。
社交不安障害とはどのような病気なのでしょうか?
社交不安障害とは、人前に出ると強い不安や恐怖を感じてしまい、日常生活に支障が出る精神疾患です。例えば、ひどい動悸が起こる、人前で極度に緊張してしまう、文字を書くと手が震えるなどの症状が見られます。
このような状態は「性格の問題」や「気の持ちよう」ではなく、脳内の神経伝達物質のバランスの乱れが関係していると考えられています。治療には、薬物療法に加え、心理療法(カウンセリングなど)を組み合わせることで、症状の改善が期待できます。1人で悩まず、まずは医師にご相談ください。
社交不安障害の治療にはどのくらいの期間がかかりますか?
社交不安障害の治療は、比較的長期間にわたる取り組みになることが多いです。薬物療法によって症状を緩和しながら、心理療法を通じて不安を引き起こす思考や行動パターンを見直していく必要があります。当院では、お薬の調整に加えてカウンセリングも行っており、安心して治療に取り組んで頂ける環境を整えています。気になることがあれば、お気軽にご相談ください。
社交不安障害と診断されましたが、家族や職場の人に伝えるべきでしょうか?
社交不安障害に限らず、病気のことを周囲に伝えるかどうかは、ご自身とその相手との関係性や状況によって異なります。そのため、一概に「伝えるべき」と断定することはできません。ただし、理解のある方に病気を伝えることで、治療への協力が得られたり、日常生活での配慮を受けられたりする場合もあり、治療を進めるうえでの助けになることがあります。社交不安障害は外見からは分かりにくく、ご本人も「性格のせい」と捉えてしまいがちな病気です。また、親しい家族とは普通に会話ができるなど、特定の場面以外では症状が現れにくいため、周囲から「気にしすぎでは?」と受け止められてしまうことも少なくありません。そのような中で、ご自身が安心して治療に取り組むためには、必要な相手に対して病気のことを伝えることも、1つの選択肢として考えてみると良いでしょう。
社交不安障害は一度治れば再発しないのでしょうか?
社交不安障害は、治療によって症状が改善しても、再発する可能性がある病気です。
例えば、職場で上司が変わったり、部署異動や昇進によって新しい役割を担うようになったりする場合や、PTAの役割を任されるなど、生活環境や人間関係に大きな変化があると、再び症状が出てくることがあります。
お薬の服用によって不安が落ち着いている間は安定していても、服用を中止した後に再発するケースもあります。そのため、社交不安障害の特性をよく理解し、無理なく長期的に向き合っていく姿勢が大切です。
社交不安障害が改善すると、緊張しなくなりますか?
社交不安は程度の差こそあれ、誰にでも見られるものであり、人前で緊張すること自体は決して異常なことではありません。むしろ、適度な緊張や不安があることで、社交的な場面で集中力が高まるなど、良い効果をもたらす場合もあります。
しかし、社交不安障害になるとその不安や緊張が過剰となり、動悸・息苦しさ・めまい・吐き気・赤面などの自律神経症状を伴うようになり、そうした場面自体を避けるようになってしまいます。これが日常生活に支障をきたすようであれば、治療が必要です。
治療の目的は、不安や緊張を完全になくすことではなく、不安を適切にコントロールしながら社会生活を送れるようになることです。
我慢して慣れていけば、社交不安障害は改善しますか?
社交不安障害の方は、長年にわたって不安を我慢しながら生活していることが少なくありません。しかし、「我慢を続ければ自然に慣れる」という考え方は、必ずしも正しくありません。不安を抱えたまま無理に苦手な場面に臨むと、「やはり自分はダメだ」「また失敗した」という記憶が強く残り、かえって恐怖心が強まってしまうこともあります。その結果、さらに回避行動が強くなり、状況が悪化することもあります。
治療では、医師やカウンセラーなどの専門家と一緒に段階的に苦手な状況に向き合いながら、適切な対処方法を身につけていくことが大切です。最初は専門家のサポートを受けながら、一緒に練習し、少しずつ自分1人でも対応できる力を育てていきましょう。
社交不安障害は性格とは関係ないですか?
社交不安障害の症状について、「自分の性格のせいかもしれない」と考える方は少なくありません。実際、ご本人だけでなく周囲の人も、病気というより「性格の問題」と捉えてしまうケースが多く見られます。
その背景には、発症時期が関係していると考えられています。社交不安障害の発症は平均して10代半ば頃が多く、この時期は人間関係が複雑になり、感情の揺れも大きく、ちょうど性格や人格が形成される時期と重なります。そのため、この時期に不安や緊張が強く現れても、それを「性格の一部」として受け止めてしまい、病気として認識されにくいのです。
しかし、社交不安障害は性格の問題ではなく、治療を必要とする精神疾患です。「自分の性格だから仕方ない」と我慢せず、早めに専門医に相談することが大切です。