- 強迫性障害(強迫神経症)について
- 強迫性障害(強迫神経症)の症状
- 強迫性障害(強迫神経症)の原因
- 強迫性障害(強迫神経症)の診断
- 強迫性障害(強迫神経症)の治療
- 強迫性障害(強迫神経症)のよくある質問
強迫性障害(強迫神経症)について
強迫性障害とは、「手が汚れているのではないか」「家族が事故に遭うのではないか」といった不安な考え(強迫観念)が、自分の意思とは関係なく繰り返し浮かんでくる病気です。これらの考えを打ち消そうとして、手を何度も洗う、鍵やガスの元栓を何度も確認するなどの行動(強迫行為)をやめられなくなります。同じ確認を何度も繰り返してしまい、日常生活に支障をきたすようになります。
発症には、性格や生育歴、ストレス、感染症など複数の要因が関与すると考えられていますが、正確な原因はまだ解明されていません。ただし、初期の段階で治療を始めることで、改善が十分に期待できる病気です。
強迫性障害は、手洗いや戸締まりの確認など、誰もが日常的に行う行為が極端に強まったものと言えます。「やりすぎかもしれない」「自分は神経質すぎるのでは」と自覚があっても、自分の力ではやめられず、そのことが大きな苦痛となります。多くの方が、「必要ないと分かっているのにやめられない」といった葛藤を訴えられます。
放置していると症状が悪化し、うつ状態など他の精神疾患を合併する場合もあります。また、行動範囲が極端に狭まり、外出ができなくなるケースもあります。少しでも不安を感じたら、早めにご相談ください。
強迫性障害(強迫神経症)の症状
強迫性障害では、多くの場合、「強迫観念」とそれに伴う「強迫行為」の両方が見られます。
以下に代表的な症状の例をご紹介します。
不潔に対する恐怖と洗浄行為
- 手すりやドアノブが不潔に感じて触れられない
- 洗濯や入浴、手洗いを過剰に繰り返してしまう など
加害に関する不安
- 誰かを傷つけてしまったのではないかという不安が消えない
- ニュースや新聞で自分が関与した事故が報道されていないかを確認してしまう
- 周囲の人や警察に、事件が起きていないかを尋ねてしまう
確認行為
- ガスの元栓や戸締まり、電気器具のスイッチなどを何度も確認してしまう
儀式的な行動
- 一定の手順を守らないと不幸なことが起きると感じ、決まった順番で行動する
- 家事や仕事でも、自分が決めたやり方を崩せない
数字への強いこだわり
- 縁起の良し悪しに関係なく、特定の数字に固執してしまう
物の配置や対称性への執着
- 物の置き方や向きに強いこだわりがあり、少しのずれも気になってしまう
強迫性障害(強迫神経症)の原因
強迫性障害は、遺伝的な要因と環境的な要因が重なり合うことで発症すると考えられています。特に、幼少期や思春期に発症したケースや、チック障害を併発している方では、遺伝の影響が強いと指摘されています。ただし、親が強迫性障害であっても、必ずしも子どもが発症するわけではありません。
遺伝的な傾向に加え、ストレスや性格といった環境要因が発症に関与することで、病気が表面化すると考えられています。
性格傾向とストレスの影響
強迫性障害になりやすい性格としては、神経質で几帳面、物事へのこだわりが強いタイプが挙げられます。また、過去のトラウマ体験や虐待といった心的外傷により、強いストレスを受けたことが発症の引き金となることもあります。
このように、先天的な素因と後天的な環境の影響が複雑に絡み合って発症に至るとされています。
強迫性障害(強迫神経症)の診断
ICD-10における診断基準
ICD-10では、強迫観念や強迫行為、またはその両方が2週間以上にわたって持続し、日常生活に明らかな苦痛や支障をきたしているかどうかが判断のポイントとなります。以下のような特徴が見られる場合、強迫性障害と診断されます。
- 症状そのものに快感はなく、不快感や苦痛を伴う
- 同じ思考や行動が不本意ながら繰り返されてしまう
- 自身の思考や行動であると認識している(他者に操られているという感覚ではない)
- 一部に違和感がない症状があっても、少なくともどこかに本人が「おかしい」と感じている点がある
DSM-5における診断と分類
DSM-5では、強迫性障害に加えて、チック症状が見られる場合も同じ枠組みで扱われます。チックとは、咳払いやまばたき、首を振る動きなどを無意識に繰り返してしまう症状です。
DSM-5における強迫性障害は、大きく2つのタイプに分類されます。
認知的タイプ
頭から離れない不安や考え(強迫観念)にとらわれ、やめたくてもやめられない行動(強迫行為)を繰り返す典型的なタイプです。例えば、「汚れているかもしれない」という不安から手洗いやシャワーがやめられない、「火事になるのでは」と心配して何度もガスや戸締まりを確認してしまうといった行動が見られます。
このタイプには、以下のような関連障害が含まれます。
- 身体醜形障害:自分の容姿が醜いと強く思い込み、繰り返し美容整形や皮膚科に通ったり、鏡を何度も確認したり、化粧品を過剰に購入するなどの行動が見られます。
- ためこみ障害:物を捨てることに強い不安を抱き、「後悔するかもしれない」との思いから物を処分できずにため込んでしまい、生活空間に支障をきたすケースもあります。
運動性タイプ
このタイプでは、不安や観念による強迫的思考がはっきりとは見られないものの、「ぴったり感」や「納得感」を求める行動が繰り返されます。例えば、鍵を閉めた際の“音”や“感覚”がしっくりこないと、何度も鍵を確認し続けてしまうといった行動です。
このような行動は、「鍵が開いていたらどうしよう」といった不安に基づくものではなく、自分の中で「完璧だ」と感じるまで終えられないという感覚に起因しており、結果的に日常生活が大きく妨げられてしまいます。
強迫性障害(強迫神経症)の治療
強迫性障害の治療では、薬物療法とカウンセリングや生活指導の2つを柱として進めていきます。
薬物療法では、患者様の感情や思考、行動の特徴に応じて適切な薬剤を選択します。例えば、衝動性が強い傾向がある場合には、一部の薬剤が適さないこともあります。
また、患者様が強迫行為を避けるために生活スタイルを変えてしまう「回避行動」や、自分の不安を軽減するために周囲の人に同じような行動を求める「巻き込み行動」が見られることがあります。具体的には、「代わりに確認してほしい」「一緒に手を洗ってほしい」といった依頼に家族が応じてしまうと、かえって症状を維持・悪化させることが知られています。そのため、周囲の人が必要以上に同調したり代行したりしないよう、適切な距離を保つことが重要です。
ただし、こうした行動を突然やめると、患者様にとっては大きな不安や苦痛となり、一時的に症状が悪化することもあります。そのため、急な制限は避けながら、段階的に支援のあり方を見直していく必要があります。
治療には、主治医・カウンセラー・患者様・ご家族の間で理解を共有し、適切な行動指導を含めた治療計画を立てて進めることが大切です。周囲の協力と長期的な視点での取り組みが、症状の改善に繋がります。
強迫性障害(強迫神経症)のよくある質問
強迫性障害ではどのような症状が現れますか?
強迫性障害は、「強迫観念」と「強迫行為」の2つが特徴です。頭から離れない不安な考えやイメージ(強迫観念)にとらわれ、それを打ち消そうとして行う行動(強迫行為)を繰り返してしまいます。
例えば「不潔恐怖」では、病気になる不安から何度も手を洗ってしまいます。「確認強迫」では、鍵をかけたか不安になり、繰り返しノブを回して確認します。「加害恐怖」では、運転中に人をはねたかもしれないと心配になり、現場に戻って確認する行動などが見られます。
その他、「不完全恐怖」や「完全強迫」では、計算や作業を何度もやり直してしまう、「縁起強迫」では、縁起の悪いことを想像して不安になるといった症状があります。
強迫性障害で、ご家族にできることはありますか?
強迫性障害は、周囲の人を巻き込みやすい病気です。例えば、家族に何度も「鍵を閉めたか」と尋ねるなどの確認を求めることがあります。家族が応じ続けると、共依存的な関係になってしまい、症状の悪化や長期化に繋がることがあります。
まずはその悪循環から抜け出すことが大切です。家族だけで抱え込まず、専門家と連携しながら適切な対応を学んでいきましょう。
強迫性障害のきっかけや原因はありますか?
うつ病では環境の変化や大切な人との別れがきっかけとなることがありますが、強迫性障害には明確なきっかけがないことも少なくありません。そのため、原因を探ることよりも、治療や支援に焦点を当てることが重要とされています。
発症しやすい年齢はありますか?
10代から20代の若年層で発症するケースが比較的多く見られます。
強迫性障害はどのようにして治りますか?
治療の中心は薬物療法で、必要に応じて心理療法も併用します。当院では、症状やご希望に合わせた治療を行っておりますので、詳細は医師にご相談ください。
症状が改善したら、不安はなくなりますか?
不安は、本来危険を察知するための大切な感情です。治療では「不安をなくす」ことではなく、「不安があっても生活に支障をきたさず過ごせる状態」を目指します。強迫行為をしなくても不安を受け入れられる力を育てていきます。
我慢してきましたが、いつ受診すべきでしょうか?
強迫観念や強迫行為に悩んでいる自覚がある場合は、できるだけ早めの受診をお勧めします。強迫性障害の方は、強迫観念が浮かんでも、それに対応する強迫行為を行うことで一時的に安心感を得られるため、つい様子を見てしまうことがあります。その結果、症状が進行してから受診されるケースが少なくありません。
しかし、症状が悪化すると、日常生活や仕事、家庭での生活に様々な支障が出てしまうことがあります。さらに、進行した状態では治療にも長い時間がかかり、身体的・経済的な負担だけでなく、ご家族にも精神的な負担がかかることがあります。
少しでも強迫観念や強迫行為が気になり始めた段階でご相談頂くことが、早期回復に繋がります。我慢せず、お気軽に医師にご相談ください。
子どもにも強迫性障害はありますか?
子どもにも強迫性障害が現れることがあります。大人のような明確な自覚はないことも多く、家庭内で無意識に身につけた強迫的な行動が症状として現れることもあります。周囲の大人が正しい知識を持ち、適切な対応を取ることが大切です。当院では保護者の方への支援も行っています。
昔からこだわりが強く、自分ルールがあります。これも強迫性障害でしょうか?
強迫性障害では、不安を引き起こす考え(強迫観念)が繰り返し浮かび、その不安を和らげるために特定の行動(強迫行為)を繰り返すという特徴があります。本人もその行動が「過剰で不合理だ」と理解していながら、自分の意思でやめることができず、その葛藤が強い苦痛となって日常生活に影響を及ぼします。
一方で、「自分なりのルールやこだわりがあるけれど、それによる精神的な苦痛は感じていない」「生活が成り立っており、本人がそれを自然なことと捉えている」といった場合は、必ずしも強迫性障害とは言えないこともあります。
強迫性障害との大きな違いは、「やめたいのにやめられない」という不合理感と、それによって生じる強い葛藤や苦痛があるかどうかです。たとえ日常生活や仕事に支障が出ていたとしても、ご本人がその行動を個性や信条と受け入れており、苦痛を伴っていない場合には、発達特性や性格傾向(例:強迫性パーソナリティ)の範囲である可能性も考えられます。
極端な例にはなりますが、文化的背景や信念に基づいた行動は、たとえ他人にとっては異質に見えても、本人が苦痛を感じておらず社会生活に支障がなければ、治療の対象とならないこともあります。
疑問や不安がある場合は、無理に判断せず、一度専門医にご相談頂くことをお勧めします。
家族に理解されません。一緒に相談してもいいですか?
もちろんです。どうぞお気軽にご相談ください。
強迫性障害の治療には、ご本人の努力だけでなく、ご家族や周囲の理解と協力が欠かせません。病気への理解が不足していると、対応がすれ違ってしまい、症状の悪化に繋がることもあります。当院では、ご希望があれば、医師やスタッフがご家族や周囲の方へ、強迫性障害の症状や治療方針について丁寧に説明させて頂きます。
強迫性障害とうつ病には関係がありますか?
強迫観念や強迫行為に多くのエネルギーを費やすことで、日常生活に支障が出たり、できていたことができなくなることで、自己否定や落ち込みを感じ、うつ状態を併発することがあります。引きこもりになるケースも少なくありません。
自然に治ることはありますか?
強迫性障害に限らず、ストレスが原因で心身に不調が現れた場合、環境の変化などでストレスが軽減されることで、症状が自然に落ち着くこともあります。
強迫性障害も、「ミスが許されない仕事を任された」「1人暮らしを始めた」「出産した」といった生活上の変化がきっかけとなって発症することがあります。ただし、はっきりとした原因が見当たらないケースも少なくありません。
また、放置することで症状が徐々に悪化し、日常生活に大きな影響が出てしまうこともあります。そのため、「少し気になるかも」と思った段階で、早めに専門医へ相談されることをお勧めします。
仕事でミスがないよう何度も確認してしまいます。強迫性障害でしょうか?
仕事において確認をすること自体は大切な行動ですが、明らかに過剰な確認を繰り返してしまう場合や、確認に時間がかかりすぎて他の業務に支障が出ている場合には、強迫性障害の可能性も考えられます。
例えば、周囲の人と比べて確認回数が極端に多い、確認のせいで業務が滞る、あるいは確認しても不安が拭えず再度繰り返してしまうといった場合は、日常生活や仕事のパフォーマンスに悪影響を及ぼす可能性があります。
こうした状況に心当たりがある場合は、一度医師にご相談ください。
お薬以外に治療法はありますか?
強迫性障害の治療には、薬物療法と心理療法の両方が有効とされています。ただし、症状がある程度以上に進行している場合には、薬物療法を行わずに治療を進めるのは現実的に難しいケースが多く、まずは薬物療法で症状の安定を図ることが重要です。
強迫症状は、多くの場合、患者様が望ましくない出来事の発生を過剰に恐れることから始まります。その恐れを避けようと、強迫行為や回避行動を繰り返すことで、一層こだわりが強まってしまう悪循環に陥るのが特徴です。
恐れている出来事は、実際には極めて起こりにくいものだったり、仮に起こっても現実的に対処できるようなものだったりします。
また、強迫性障害は発症してから治療を受けるまでに数年が経過していることも少なくありません。その間に症状が固定化し、強迫観念と強迫行為の悪循環が深まっている場合、生活の変化に対する不安や恐怖から、治療への理解や受け入れが難しくなることもあります。
そのため、薬物療法は単に症状を抑えるためだけでなく、心理療法を効果的に進めるための土台づくりとしても重要な役割を果たします。
完璧主義やきれい好きと、強迫性障害の違いは何ですか?
強迫性障害には様々なタイプがあります。例えば、「汚れている気がして不安になり何度も手を洗う」「ガスや鍵を繰り返し確認する」「特定の数字やイメージが浮かぶと不安になり、同じ行動を何度も繰り返してしまう」などの症状が見られます。こうした行動は、一見すると完璧主義やきれい好き、几帳面な性格によるもののように見えることもあります。
しかし、強迫性障害とこれらの性格的特徴との決定的な違いは、「本人が過剰で不合理だと分かっていてもやめられず、そのことで苦しんでいる」という点にあります。つまり、不安や行動が本人の意思ではコントロールできず、日常生活や仕事、人間関係にまで支障をきたしてしまうのです。