依存症について
依存症には、アルコールや薬物、タバコといった「物質」への依存のほか、性行為、ギャンブル、買い物などの「行動」への依存、さらには恋愛や共依存、ストーキングといった「人間関係」への依存があります。これらは元々、快楽や満足感、喜びといった「快」の感情をもたらすものですが、依存症となると話は変わります。
単に楽しんでいる状態と依存症との違いは、本人の意思や価値観に反していると自覚しながらも、やめられなくなっている点にあります。つまり、自分自身や周囲に害を及ぼしているにもかかわらず、それをやめることができず、むしろその頻度や度合いが徐々に強まり、最終的には社会生活、人間関係、健康管理など、日常生活全般に深刻な影響を及ぼすようになります。
依存症がなぜ起こるのか
依存症に陥るかどうかは、本人の心理的傾向に加えて、特定の対象と脳の反応が強く結びつくかどうかにも左右されます。
いわゆる「依存しやすい体質」の人は、その対象との相性が非常に強く合致すると、そこに強くとらわれてしまい、自分の意思では手放せなくなります。
周囲からは、あたかも快楽を求めてやめられないように見えますが、実際に本人も「心地よさ」や「満足感」を感じているため、自覚的にもやめる理由を見失いがちです。
しかし現実には、健康や人間関係、生活に悪影響が出ていたとしても、「問題ない」「今回が最後」と言い訳を重ねながら、依存行動を繰り返してしまいます。これは本人の性格や意志の問題ではなく、依存対象に対する脳の働きそのものが、やめることを困難にしているためです。
依存症の特徴
コントロール障害
依存の対象が脳に強く結びつくと、一度始めるとやめられず、限度なく続けてしまうようになります。
「少しだけにしておこう」「今日はやめておこう」と思っても、それを実行できず、結果として本人だけでなく、家族や周囲の人々にも悪影響を及ぼすようになります。
常習性
何度やめようと決意しても、それを継続できなくなるのが依存症の大きな特徴です。
意思が弱いからではなく、意思そのものが通用しない状態に陥っていることが、この病気の本質です。
現実の否定と自己正当化(否認・虚偽・歪んだ認知)
依存症では、自分の問題を認めようとせず、嘘をついたりごまかしたりする傾向が強く見られます。
それは他人に対してだけでなく、自分自身に対しても当てはまり、「本当は問題があるのにないと思い込む」「相手を傷つけても自分は正しいと考える」といった歪んだ認識に結びつきます。こうした認知の歪みは、依存をやめられない理由の1つになっていきます。
依存症の経過
依存が始まるきっかけは、多くの場合、「ちょっと試してみた」「少し楽しんでみたかった」「気分転換のつもりだった」といった軽い動機です。
気持ちをリフレッシュさせたり、心地よさを感じる行為は誰にでもある自然なことですが、一部の人は、脳と依存対象の反応が強く結びつくことで、自分で加減することが難しくなってしまいます。
この「やめたくてもやめられない状態(コントロール障害)」は、比較的早い段階から現れますが、多くの場合、本人が問題を認めず、嘘をついたりごまかしたりすることで周囲からも気づかれにくくなります。そのため、依存症でない人との区別は初期には困難です。
しかし次第に、日常生活に支障が出たり、違法行為に至るなどして、問題が表面化していきます。
依存症の治療
治療において最も大切なことは、周囲の人々が「依存症は病気である」と正しく理解し、本人が「治したい」という気持ちを持つことです。
この認識が曖昧なままだと、「意志が弱いだけ」「努力すれば治る」といった誤った対応になり、治療はうまく進みません。
どのような依存対象であっても、基本的な治療方針は共通しています。
それは、歪んだ認知を修正して行動を変えていくこと、そして、依存に逃げてしまう心の背景に向き合うことです。また、依存症の背後にうつ病や不安障害などの精神疾患がある場合には、それらの治療も並行して行う必要があります。
さらに、他者に被害を及ぼしたり、犯罪に繋がるリスクがある場合には、依存対象から物理的に距離を置く対症療法が求められることもあります。
依存の種類によって治療方法は異なりますが、経験と実績のある「自助グループ」に参加することも有効な手段の1つです。